がんになると厄介な理由な一つとして遠隔転移をすることが挙げられます。がん細胞を手術でとってしまっても、微細ながん細胞や、がん細胞自体は日々我々の体からも生まれ続けています。

加齢やなんらかの理由で免疫力が下がってしまうと、結局はまたがんになってしまうのです。とりわけ転移というものは非常に厄介で、肺や脳、または他の臓器にがんが転移してしまうと、なかなか治りにくく、治療も効きづらい。そういったことから、これまで非常に厄介とされてきました。

しかしここに来て希望の持てる話が出てきています。それはがんの転移を防ぐ物質の存在です。それはいったいどのような物なのでしょうか。

今日はがんの転移を防ぐ物質について注目してみたいと思います。


がんの転移を防ぐ物質ANPとは?

現在、日本だけでなく世界中でガンの転移に関する研究がされています。様々な薬が臨床で試されていますが、これまでなかなんかがんの転移を防ぐ有効な方法は見つかっていませんでした。

しかし思わぬところから、この福音がもたらされることとなります。それは「心臓」からでした。正確には心臓というより心臓の薬、しかも心不全に使われる薬が、がんの転移を防ぐことがわかったのです。

それは「ANP」(心房性ナトリウム利尿ペプチド)英語名:Atrial Natriuretic Peptideというものです。これは元々私達の心臓から放出される物質です。

このANPは何らかの理由により、心臓に負担がかかった時に心筋細胞から放出される物質で、その役目は心臓がしんどい状態のことを全身の臓器や器官に知らせる働きがある物質なのです。

このANPは製剤となり急性心不全の治療薬としても使われています。ANPの役割としては、主に血管の拡張作用です。人間の体の全身に張り巡らされている血管がANPを受け取ると、血管が拡張することで血圧が下がります。

さらには、腎臓が心臓からANPを受けると尿の量を増やして水分を余計な分だけを排出するように促します。水分が減ることでその分だけ血圧が下がるわけです。

ANPには本来、こういった体の不具合に対して調整を促す機能がありましたが、今回がんの転移を防ぐ「がん転移予防薬」として脚光を浴びることになったのです。

ANP投与で脅威のがん転移無再発率が91%に!

国立循環器病研究センター研究所の医師である野尻崇医師は、肺がんの患者の心臓の負担を減らす目的でANPを投与していました。あくまでこの時点ではANPは心臓の負担を減らすことのみが目的だったのです。

しかし次のデータからがんの転移予防へと話がつながっていくのです。野尻医師は、がんの手術中に心臓の負担を下げるためだけにもともとANPを投与していました。

ただ、患者さんのあるデータを見た時に驚きのことに気が付きます。それは、がんの手術の際にANPを投与された患者とそうでない患者では、がんの転移に大きな差が生まれていることに気付いたのです。

ANP
出典:http://www.nhk.or.jp/kenko/atc_451.html

写真はそのデータを示しています。肺がんの手術でANPを投与した人は、手術から2年後でがんが再発していない確率、いわいる無再発生存率が91%だったのです。

ANPを投与されなかった患者は無再発率は67%でした。別の言い方に置き換えると、ANPを手術で投与した人は2年後は9%の人が再発、もしくは亡くなった。ANPを投与しなかった人は2年後には33%の人ががんを再発もしくは亡くなったということでもあります。

この数値からすると、明らかにANPのがんに対する何らかの関与があることを示唆しているように思います。ANP使用で再発しない人が9割とANP不使用で再発しない人が6割では、かなり優位な差がついていると思います。

このことが要因となり、ANPは明らかに血管拡張以外の役割があることだけは明確になったと思います。

ANPには傷んだ血管を修復する作用がある。

このANPは実は血管を拡張させるだけでなく、傷んだ血管を修復する機能があります。人間の血管は加齢や高血圧、または外傷などのダメージによって血管がボロボロに傷むことがあります。

血管にささくれのような傷ができると、そこにプラークが引っかかって血栓ができやすくなったりするのですが、この血管の傷をANPは修復することが解っています。

血管が修復されると、血栓ができにくくなり、心臓への負担も結果的に減るというこことです。


いったいなぜANPはがんの転移を予防するのか?

そこで疑問に思うことですが、ANPがなぜがんの転移を予防する効果があるのかということです。このがんの転移を防ぐ機能はまさにANPの血管を修復する機能が直接関係しています。

がんは転移をする時に、血管の傷から臓器へ入り込む性質があります。がんの腫瘍摘出の手術の後には、かならず微細ながん細胞は体内に残ります。

<血管から入り込むがん細胞イメージ>

ANP
出典:http://www.nhk.or.jp

しかし、がん細胞の数が少ないのなら通常は免疫細胞が、がん細胞をしっかり破壊してくれます。ですから手術後はすぐにがんが転移することは通常はないのです。

しかしもし血管に著しい傷がついていたりすると、残ったがん細胞や日々生まれてくるがん細胞は、血管に流れていき、傷ついた血管から臓器に侵入します。そうして転移する可能性が示唆されています。

ANPが血管を修復してくれていれば、がん細胞が血管から臓器へ写るスキが無くなるのです。そういった原理からANPを投与するとがんが転移しにくいのではないかと現時点では考えられています。

ANPで臨床試験が大規模に行われている

現在、こうした理由から新たにがんに対して希望となるANPをつかった臨床試験が行われています。手術の直前から3日の間、血液中にANPを投与するという臨床試験です。

これによって、いかにANPががん予防に効果を発揮するのかが解ってくるので、結果に期待したいと思います。

<臨床試験で投与されるANP>

ANP投与
出典:http://www.nhk.or.jp

場合によっては、病気になる前にANPをうったら、それはどうなるのかといった部分にも個人的には興味があります。続報を待ちたいです。

まとめ

  • がんの転移を防ぐ物質はANP(心房性ナトリウム利尿ペプチド)という。
  • ANPは肺がんの無再発率が91%(手術から2年後)と非常に高い。
  • ANPは現在、がんの転移全体でどのような効果があるのか大規模な臨床試験中である。

血管の修復ががんの転移予防に繋がるとすると、かなりがん患者の方のがん転移が防げて大幅に予後が変わってきます。

もし血管の修復があらゆるがんの転移に対して有効となると、原発巣のがん(元のがん)さえ取ってしまえば、怖いものなしになってくるかもしれません。

現在アメリカで臨床中の夢のがん治療である「近赤外光線免疫療法」と併せて治療すれば、人類のガン克服の日も現実味を帯びてくるかもしません。本当に科学の進歩はすごいです。

がん患者の方は毎日の1分1秒が大事です。できるだけ早くこの臨床結果がでることを望んでいます。今後の続報を待ちたいと思います。